福岡高等裁判所宮崎支部 昭和30年(う)168号 判決
(イ)、弁護人の控訴趣意第二点及び被告人の控訴趣意について。
原判決挙示の被告人の司法警察員に対する各供述調書は、原審の公判手続で、被告人及び弁護人がこれを証拠とすることに同意していて、右各供述のされたときの情況を考慮し、相当と認められるから、これを証拠とすることができるし、その証明力においても疑を挾むかどはなく、原判示第一の事実は、原判決がその認定の資料として挙示する証拠を綜合して優に認定し得るところである。特に所論の暴行の状況並びに程度については、原審第二回公判期日で、被害者である証人爰野トミエが、「懐中電燈を右手に持つて照らしながら、六畳の部屋を通つて下駄を履いた時、向うに人が現われて、はつきりしませんでしたが、私のどちらかの手を握りましたので、私はなんとか叫んだと思います。そして、私は店の敷居の上り口のところに押し飛ばされ、そして、胸を二、三回何かで突かれたのです。その時私は口をふさがれ、手に握つていた懐中電燈は、拇指と人差指をこねあけられて取られたのです。その時、津上イソエさんがローソクをつけてくれたものと思います。私はそのまゝ倒れていたのです。」と述べているのであつて、これによると、被告人の暴行が被害者の反抗を抑圧するに足るべきものであつたことは容易に看取できるところであり、右暴行は、被告人が罐詰一個を窃取した後、被害者に発見され、その逮捕を免れるためになしたものであることは、被告人の検察官事務取扱副検事に対する供述調書によつて明認できるところである。即ち、原判決の事実の認定に誤はなく、論旨はいずれも理由がない。
(ロ)、弁護人の控訴趣意第一点について。
刑法第二三八条の準強盗罪の成立には、窃盗の犯人が財物の取還を拒き又は逮捕を免れる等のため、暴行又は脅迫をなせば足り、現実に被害者又は第三者において財物を取還し、又は犯人を逮捕する行為に出でたことを必要としないのであるから、被害者等が被告人を逮捕せんとした事跡がないから準強盗にならないという所論は当らない。従つて、原判示、被告人が被害者居宅の店舗で罐詰一個を窃取した後、逮捕を免れるため、被害者に暴行を加えた点は、それだけを採つて考えると、刑法第二三八条に該当することは明らかである。しかし、被告人は、右暴行によつて更に被害者から懐中電燈一個を強取し、且つ、右暴行の結果、被害者に傷害を与えたのであつて、原判決の認定(判示第一の冒頭)によれば、以上一連の行為は、包括的予見の下に敢行されたものである。かように、犯人が包括的予見の下に、先ず、甲財物を窃取した後、逮捕を免れるため暴行をなし、引続いて乙財物を強取し、右暴行の結果傷害を与えたときは、これを包括して、一個の強盗致傷罪が成立するものと解すべきである。従つて、原判決の法令の適用に誤はなく、又、その理由にくいちがいもない。論旨も理由がない。
(裁判長裁判官 山下辰夫 裁判官 二見虎雄 裁判官 長友文士)